| 事件番号 | 令和6年(あ)第1657号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 判決日 | 2026-04-21 |
| 通称 | 日南市官製談合事件 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 市の入札では、予定価格は入札の前に公告や通知で公表される運用だった。その公表より前に副市長が業者側へ近い金額を伝えた行為が罪になるかが争われた
- 最高裁は、あとで公表されるとしても、公表前に一部の業者だけが知れば入札の公正は害されると判断した
- 上告を棄却する決定をし、有罪が確定した
何があったのか
宮崎県日南市の副市長だった人が、市が発注する工事の入札に関して起訴された事件です。この人は市発注工事の入札や契約に関する事務を指揮監督する立場にあり、市の指名競争入札参加者資格等審査委員会と公正入札調査委員会の、どちらの委員長も務めていました。
問題になったのは3件の入札です。
1件目と2件目は、2018年3月に執行された道路災害復旧工事の入札でした。副市長は、その1〜2か月前にあたる2018年1月18日頃から同月23日頃までの間に、建設会社の代表取締役で地区建設業協会の会長も務めていた人物に対し、予定価格に近い「おおむねの査定決定額」を伝えました。
3件目は2020年2月に執行された道路災害復旧工事の指名競争入札です。副市長は、その約3か月前の2019年11月頃、同じ協会長と共謀のうえ、査定決定額に加えて工法まで伝えました。
ここで前提になるのが、日南市の運用です。予定価格や工法は、一般競争入札ならインターネット等で公告され、指名競争入札なら指名業者に通知される扱いになっていました。つまり入札の時点では、参加する業者全員が予定価格を知っている状態です。ただし公告や通知の前は、これらは公表されておらず、予定価格の算定の基になる査定決定額や工法は関係職員しか知り得ない情報として管理されていました。
そしてもう一つ。日南市の建設業者らは、この協会長が主導する形で、従前から談合を行っていました。
何が争われたのか
弁護側はこう主張しました。予定価格や工法が入札前に公表されるのであれば、結局は全業者がそれを把握したうえで入札することになる。だとすれば「その公表前に一部の業者がこれらの情報を知ったとしても入札の公正は害されない」——だから犯罪は成立しない、と。
適用が問題になったのは2つの条文です。1つは官製談合防止法(正式名称は長いのですが、職員が入札等の公正を害する行為をした場合の処罰を定めた法律です)の8条。もう1つは刑法96条の6第1項、公契約関係競売入札妨害の罪です。
なお本件で適用されたのは、いずれも2022年(令和4年)の改正より前の条文です。最高裁も決定文で「改正前のもの」と明示しています。
裁判所はどう判断したか
最高裁第三小法廷は、上告理由には当たらないとしたうえで、この点について職権で判断を示しました。
重視されたのは、情報を伝えた時点と、伝えた相手です。関係職員しか知り得ない情報として管理されていた段階で、談合を主導していた協会長に金額や工法を伝えた——この事実関係のもとでは、その行為は次のように評価されると述べました。
特定の事業者のみに事前準備を可能にさせ、又は談合を助長するおそれがある
そのうえで、あとから予定価格等が事前公表されることを踏まえてもなお、
入札が公正に行われていることに対して疑問を抱かせ、その公正に正当でない影響を与える
ものといえる、としています。
結論として、2018年の2件についての行為は官製談合防止法8条にいう公正を害すべき行為に当たり、2020年の入札についての行為は同条に加えて刑法96条の6第1項の公正を害すべき行為にも当たる、と判断されました。有罪を認めた第一審判決を是認した原審の判断は正当であるとして、上告は棄却されています。裁判官全員一致の意見でした。
この判決の意味
いずれ公表される情報であっても、公表前に知ることには価値がある——最高裁が実質的に踏み込んだのはこの点だといえます。全員が同じ情報を持って入札に臨むとしても、一部の業者だけが数か月早く知っていれば、その分だけ準備ができ、談合の調整もしやすくなります。
もう一つ見落とせないのが、情報を伝えた相手の性質です。決定文は、相手が建設会社の代表取締役であると同時に、談合を主導していた協会の会長であったことを、判断の前提としてはっきり書き込んでいます。誰に伝えたかが評価を左右した事案として読めます。
決定文の言葉づかいにも特徴があります。実際に落札結果が歪んだと認定するのではなく、事前準備を可能にさせ、あるいは談合を助長する「おそれ」があると述べたうえで、入札の公正さへの疑問を抱かせる点を問題にしています。結果が変わったかどうかより、公正に行われているという信頼が損なわれるかどうかに目を向けた説明だといえます。
その後・実務への影響
報道によれば、この決定によって一審の宮崎地裁が言い渡した懲役2年・執行猶予3年の有罪判決が確定しました。二審は福岡高裁宮崎支部で、2024年11月21日に控訴が棄却されています。
この決定が退けたのは、予定価格が事前に公表される運用だったことを理由に罪の成立を否定する主張でした。同じような弁解——どうせ公表される情報だった、という説明——が今後は通りにくくなると考えられます。入札事務に関わる職員にとっては、公表のタイミングを自分の判断で前倒しすることの意味を、あらためて確認させる決定だといえそうです。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。