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コロナ給付金から性風俗事業者を除いたのは差別にあたるか

事件番号令和6年(行ツ)第21号
裁判所最高裁判所第一小法廷
判決日2025-06-16
通称セックスワークにも給付金を!訴訟
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • コロナ禍の持続化給付金と家賃支援給付金は、性風俗関連特殊営業を営む事業者を給付対象から除外していた。この扱いが法の下の平等(憲法14条1項)に反するかが争われた
  • 最高裁第一小法廷は、除外は憲法14条1項に違反しないと判断し、事業者側の敗訴が確定した
  • ただし裁判官5人のうち1人(裁判長)が違憲とする反対意見を書いており、判断は割れている
目次

何があったのか

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で売上が落ち込んだ中小事業者を支えるため、国は2つの給付金を作りました。

ひとつが持続化給付金です。前年の同じ月と比べて事業収入が50%以上減った月がある中小法人等が対象で、給付額は200万円を超えない範囲で計算されました。もうひとつが家賃支援給付金です。土地や建物を借りて事業をしている中小法人等が対象で、1か月分の賃料が75万円以下なら、その3分の2に6を掛けた額(上限は600万円)というように算定されました。

どちらも、申請にもとづいて国と事業者のあいだに贈与契約が成立し、中小企業庁長官が給付額を決める仕組みです。

この2つの給付規程には、いずれも同じ趣旨の定めが置かれていました。風営法にいう性風俗関連特殊営業を行う事業者には給付しない、というものです。

原告は、そのうち無店舗型性風俗特殊営業(客の指定する場所に接客従業者を派遣する形態の営業)を営む事業者でした。2020年9月に両方の給付金を申請する書面を送りましたが、除外規定がある以上、給付は受けられません。そこで、この除外は憲法に違反するとして、国と、給付金事務局の業務を受託していた2社を相手に、給付金の支払などを求めて提訴しました。支援者のあいだでは『セックスワークにも給付金を!訴訟』と呼ばれた裁判です。

一審・二審とも事業者側の請求を退け(二審は東京高裁・2023年10月5日)、事業者側が上告していました。

何が争われたのか

争点は大きく2つでした。

ひとつは**憲法14条1項(法の下の平等)**です。同じようにコロナで売上が減った中小事業者なのに、事業の種類だけを理由に給付を受けられないのは、合理的な根拠のない差別ではないか。

もうひとつは**憲法22条1項(職業選択の自由)**です。給付を受けられないことが、この営業を続けることへの不利益になっていないか。

裁判所はどう判断したか

最高裁はまず、憲法14条1項について過去の大法廷判決を引きながら、次のように整理しました。

事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨

そのうえで、今回の給付金は政策目的のために公費から支出されるもので、給付を受けられない人の権利を制約するものでもない、という点を出発点に置きます。だとすれば、国が制度を作るにあたっては、政策的な見地から給付対象者の範囲を線引きすることが許される、というのが多数意見の枠組みです。

線引きが不合理でないと言えるか。多数意見は2つの理由を挙げました。

1つめは、風営法上の位置付けです。 この営業には風営法で種々の規制がかけられており、しかも風俗営業のような許可制ではなく届出制がとられています。多数意見は、届出制がとられているのは、一定の水準を求めて健全化を図るという前提の規律になじまないと考えられたからだと読み、この営業は現行法上、その健全化を観念し得ないものとして位置付けられている、と述べました。そして、その位置付け自体が合理性を欠くとはいえない、としています。

2つめは、接客従業者の尊厳です。 従業者が客の指定する場所に出向いて役務を提供するという業務態様であることから、その尊厳を害するおそれがあることは否定しがたい、と指摘しました。

この2点を踏まえ、国が

公費を支出してまでその事業の継続を支えることは相当でない

と判断して給付対象から外したことは、不合理とはいえない——これが結論です。憲法22条1項についても、一定額を給付しないというにとどまるとして、違反しないとしました。

補足意見を書いた安浪亮介裁判官は、多数意見は抽象的な性道徳を持ち出して事業者や従業者を他の人より劣った存在だと評価したものではない、と念を押しています。

裁判長は違憲だと述べた

これに対し、宮川美津子裁判長は反対意見を書きました。

出発点は給付金の趣旨です。前例のない状況で、業種を問わず広く影響を受けた事業者に対し、緊急に決められた給付金である。その趣旨からすれば、

給付対象となる事業者の事業の種類によって異なる取扱いをすることは予定されていない

と述べます。

多数意見の2つの理由についても、それぞれ反論しています。風営法は、風俗営業(こちらは給付対象です)と性風俗関連特殊営業のどちらについても、規制の必要があるものとして扱っている点で違いはない。届出制がとられたのは、性という極めて私的な事柄に国が公的な水準を定めることになりかねないためとも考えられ、健全化を観念し得ないと位置付けたものと読むのは相当でない。

尊厳についても、この営業で提供されるサービスは、売春防止法が禁じる売春とは異なり、法律上、従業者の尊厳を害するものとは位置付けられていない、と指摘します。そのうえで、事業者が従業者と客のあいだに入ることで危険を予防できる面もあるとして、当然に尊厳を害するおそれがあるとまでは断じられない、としました。

結論として、除外は憲法14条1項に違反する、原判決を破棄して審理を尽くさせるため差し戻すべきだ、というのが反対意見です。

この判決の意味

争われたのは「営業を禁止してよいか」ではなく、公費からの給付の対象を、国がどこまで自由に線引きできるかでした。最高裁は、権利を制約するものではない給付制度については、政策的な判断の幅を広く認める立場をとったことになります。

注意したいのは、多数意見が結論を導くときに、抽象的な道徳ではなく、風営法という法律の中でその営業がどう位置付けられているかを手がかりにしている点です。補足意見がわざわざそこを確認しているのも、そのためだと読めます。裏を返せば、法律上の位置付けが変われば、同じ問いへの答えも変わる余地がある、という読み方もできます。

そしてこの判断は、裁判官5人のうち4人の意見です。裁判長自身が違憲だと述べており、給付金の趣旨をどこまで重く見るかで結論が分かれうる問題だったことが、判決文からそのまま読み取れます。

なお、風営法はこの判決の後、2025年に施行された改正で規制が追加されています。ここで説明したのは、あくまで判決の時点での法律上の位置付けにもとづく判断です。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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