| 事件番号 | 令和5年(行ヒ)第207号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第二小法廷 |
| 判決日 | 2025-02-17 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 地下と地上で構造が違う高層ビルの固定資産税評価で、どちらの構造を基準に「築年数による目減り」を計算するかが争われた
- 最高裁は、低層階の構造に合わせて計算した市の方法を、国の評価基準に反しないと判断した
- 二つの計算方法で評価額に約4億円の差があったが、納税者を勝たせた高裁判決は破棄され、所有者の請求は認められなかった
何があったのか
舞台は広島市にある地下2階・地上23階建てのビルです。平成5年9月30日に新築され、平成18年9月22日に増築されています。
このビルの増築部分を除く部分は、地下2階と地下1階が鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)または鉄筋コンクリート造(RC造)で、地上部分の主要な柱や梁は鉄骨造(S造)でできていました。登記簿上の床面積で見ると、約90%がS造の部分、約10%がSRC造・RC造の部分です。こうした複数の構造が混ざった建物を、判決は「複合構造家屋」と呼んでいます。
家屋の固定資産税は、その家屋を今もう一度建てたらいくらかかるかを点数化し、そこから築年数に応じた目減り分を差し引いて評価額を出します。この目減り率が「経年減点補正率」で、国が定めた固定資産評価基準の表に、構造ごとに5つの区分で定められています。率は構造区分ごとに違い、経過年数とともに下がっていって0.2000で止まります。つまり、どの構造区分を当てはめるかで評価額が変わります。
広島市長は、平成6年度以降このビルの既存部分にSRC造等の経年減点補正率を当てはめ続けており、平成30年度の価格も同じやり方で18億1743万9165円と決定しました。所有者はこれを不服として広島市固定資産評価審査委員会に審査を申し出ましたが、令和元年7月9日付けで棄却され、その決定の取消しを求めて提訴しました。報道によれば、訴えたのは三菱UFJ信託銀行で、大阪市分と合わせて3件の訴訟が並行していました。
何が争われたのか
評価基準は、非木造家屋の経年減点補正率をその構造区分に従って求めるとしています。ところが、一棟に複数の構造が混ざっている場合にどうするかは書かれていません。判決も次のように確認しています。
本件基準表をどのように適用するかについての具体的な定めはない
そこで運用が分かれます。広島市が採ってきたのは、低層階を構成する構造に合わせるやり方でした。所有者側は、床面積が最も大きい構造、つまりS造(骨格材の肉厚が4mmを超えるもの)を基準にすべきだと主張しました。そちらで計算すると評価額は14億1992万2257円となり、市の決定額との差は約4億円になります。
もう一つの争点が、市自身の内部ルールとの整合性でした。広島市は平成29年4月に評価事務の取扱要領を定め、複合構造家屋は床面積が最も大きい構造を「主たる構造」とすると決めていたのです。ただしこの要領は、すでに課税されている家屋(在来分家屋)にも適用するのかを定めていませんでした。新しく課税される家屋には床面積で判断し、古い家屋には従来どおり低層階で判断するのは不平等ではないか、という問題です。
裁判所はどう判断したか
原審の広島高裁は令和5年3月9日、所有者側に近い判断を示していました。取扱要領は合理的なルールであり、建築時期によって扱いを変えるのは地方税法や評価基準の趣旨に反するとして、在来分家屋にも床面積による判断を及ぼすべきだとし、審査決定のうち14億1992万2257円を超える部分を取り消したのです。
最高裁はこれを覆しました。
出発点として最高裁は、表に定められた目減り率が、構造耐力の減少や損傷による劣化といった物理的な要因で決まる耐用年数を土台に、機能面・経済面の要因も考慮して定められたものだと整理します。そのうえで、建物を取り壊すかどうかは基本的に一棟を単位に判断されること、建物にかかる荷重や外力は最終的に低層階の構造が負担することを指摘しました。
その低層階を構成する構造の耐用年数が経過しない限り
その間は他の部分は補修などで持たせられる、というのが最高裁の見方です。だとすれば取壊しの判断を低層階の構造に着目して行うことも不合理とはいえず、低層階の構造に応じた率を当てはめることも
合理性を欠くものとはいえず、評価基準上許容されるものというべきである
と結論づけました。
取扱要領についても、在来分家屋まで一律に床面積での判断に切り替えるとなれば市の評価事務に大きな負担が生じるとして、要領はそこまで定めたものではないと解釈し、平等原則違反にもあたらないとしました。
結果として原判決は破棄され、所有者の控訴が棄却されました。第1審の請求棄却が生き返った形で、差戻しではなく、この段階で決着しています。
この判決の意味
評価基準に書かれていない部分について、自治体が長年続けてきた運用に一定の幅を認めた判断といえます。書かれていない以上は納税者に有利な方法を採るべきだ、という筋道は採られませんでした。
ただし、4人の裁判官のうち1人、草野耕一裁判官は反対意見を書いています。税金を課す条件は明確でなければならず、条文だけでは一義的に決まらない場合、導き出した計算方法が納税者に予測できないものであるなら、税務当局はあらかじめそれを公表しておくべきだ、という立場です。広島市は複合構造家屋の計算方法を事前に公表していなかったのだから、この評価は違法だとして、上告を棄却すべきだと述べました。これは1人の裁判官の意見であって、法廷の判断ではありません。それでも、ルールが公表されていない領域で課税額が決まっていくことへの問題提起として読めます。
なお、この判決が扱ったのは平成30年度の評価であり、当時の固定資産評価基準に基づく判断です。評価基準は3年ごとの評価替えに合わせて改正されており、記事の内容をそのまま現在の評価に当てはめられるとは限りません。
その後・実務への影響
報道によれば、同じ所有者が大阪市と広島市を相手に起こした3件はまとめて判断され、いずれも納税者側の敗訴が確定しました。高裁段階で納税者を勝たせていた2件が破棄されたことになります。
複合構造家屋をどう評価するかについて、国の評価基準の本体に具体的な定めが置かれていない状態は、その後も続いているとされます。実際の運用は、この事件の広島市のように各自治体が内部の取扱要領で決めています。評価額に納得できないときは、この事件の所有者と同じように、市町村の固定資産評価審査委員会に審査を申し出るところから始まります。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。