| 事件番号 | 令和3年(受)第2001号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷 |
| 判決日 | 2023-10-23 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- マンションの工事代金をほとんど払ってもらえなかった建設会社が、敷地を譲り受けた別の会社とその代表者に損害賠償を求めました。
- 最高裁は、建設会社が自分でマンションを分譲して代金を回収するという見込みは、この事案では法的に保護される利益になっていなかったと判断し、請求を退けました。
- 第一審と高等裁判所は賠償を認めており、最高裁でも5人の裁判官のうち2人が反対意見を述べています。
何があったのか
ある会社が、松江市の土地にマンションを建てて分譲する計画を立てました。この会社は2014年(平成26年)に敷地を合計6100万円で買い、翌2015年6月、建設会社に建築工事を発注しました。
請負代金は10億1500万円です。支払いは3回に分けられ、契約後に5000万円、上棟時に1億5000万円、完了時に8億1500万円という約束でした。
ところが、建設会社が受け取れたのは最初の5000万円だけで、上棟時の1億5000万円は支払われませんでした。そこで建設会社は2016年7月、敷地に極度額6000万円の根抵当権を設定してもらい、登記もしています。判決によれば、この根抵当権は敷地の交換価値の全部を把握するものでした。
その後も支払いは進まず、2017年2月15日までに建設会社が受け取った代金は、遅延損害金を除いて合計6017万円余にとどまりました。建設会社は同じ日に工事を中止します。この時点で、工事の出来高は全体の99%を超えていました。
建設会社は2日後、マンションを自分の占有下に置き、注文者の会社の関係者の立ち入りを禁じました。そして、自分でマンションを分譲販売して代金を回収する方針をとります。
一方、注文者の会社は、マンションの引渡しを受けて自分で販売したいと要望していました。建設会社はこれに応じず、注文者の会社について破産手続開始の申立てをする方針を決めます。
その矢先の2017年4月2日、注文者の会社は敷地を別の会社に譲り渡しました。登記上の原因は売買ですが、譲り受けた会社は対価を支払っていません。
建設会社は同月18日に破産手続開始の申立てをし、6月2日に開始決定が出ました。破産管財人は、この敷地の譲渡について破産法に基づく否認を求める訴えを起こし、2019年(令和元年)9月、管財人の請求を認める判決が確定しています。
何が争われたのか
建設会社は、敷地を譲り受けた会社とその代表取締役を相手に、損害の一部として1億円と遅延損害金の支払いを求めました。敷地を譲り受けた行為が、請負代金の債権などを違法に侵害する不法行為に当たる、という主張です。
不法行為による損害賠償を定める民法709条は、他人の権利または法律上保護される利益を侵害したことを要件としています。そこで問題になったのは、建設会社が持っていた、自分でマンションを分譲して代金を回収するという利益が、法律上保護される利益といえるかどうかでした。
高等裁判所は、これを認めました。注文者の会社にはマンションの販売代金のほかに支払いの手段がなく、建設会社は自分で分譲して回収を図ることにしていたのだから、その利益は事実上の期待にとどまらず「不法行為法上の法的保護に値する利益」になっていた、という考え方です。そのうえで、譲り受けた側は事情を知りながら、あえて経済的合理性のない譲受けをして回収を妨害したとして、賠償を命じていました。
裁判所はどう判断したか
最高裁は、高等裁判所の判断を是認できないとしました。理由として挙げられたのは、次の2点です。
1つ目は、敷地の持ち主です。譲渡の当時、敷地は注文者の会社が所有していました。建設会社が将来、敷地の所有権やその他の敷地利用権を取得する見込みがあったという事情もうかがわれない、とされています。そうすると、建設会社がマンションを敷地利用権付きで分譲するには、注文者の会社の協力が必要でした。
2つ目は、その協力が得られる状況だったかです。注文者の会社は、建設会社の意向とは異なり、引渡しを受けて自分で分譲することを要望していました。最高裁は、建設会社が協力を得ることは困難な状況にあったと見ています。
これらを踏まえ、最高裁は、自分で分譲して債権を回収するという建設会社の利益は「単なる主観的な期待にすぎないもの」といわざるを得ず、法的保護に値するものになっていたとはいえない、と述べました。
結論として、敷地を譲り受けた行為は、債権を違法に侵害する行為には当たらないとされました。最高裁は高等裁判所の判決を破棄し、第一審判決のうちこの会社と代表者に関する部分も取り消して、建設会社の請求をいずれも棄却しています。高等裁判所に審理をやり直させるのではなく、最高裁自身が結論を出した形です。
この判決には、2人の裁判官の反対意見が付いています。1人は、建設会社がマンションの所有権を取得していた可能性などについて審理を尽くさせるため、高等裁判所に差し戻すべきだとしました。もう1人は、賠償を認めた高等裁判所の判断は結論において正当であり、上告を棄却すべきだとしています。
この判決の意味
この判決が退けたのは、請負代金の債権そのものではありません。否定されたのは、ある特定の方法で回収できるという見込み、つまり自分でマンションを分譲して回収するという利益が、不法行為で守られる利益に当たるという点です。
最高裁が重視したのは、その回収方法が実現できる状況に実際にあったかどうかでした。建物を自分の管理下に置いていても、敷地は他人のもので、その協力を得ることが難しい状況にあった以上、分譲による回収は期待にとどまる、という見方が示されています。
他方で、高等裁判所が指摘していた、事情を知りながら対価を払わずに敷地を譲り受けたという点について、多数意見は立ち入っていません。保護される利益がそもそも無いとされたためです。行為の悪質さをどう評価するかは反対意見が論じたところで、裁判官の間でも結論が3対2に分かれました。
また、これは判示事項にも事例とあるとおり、この事案の事実関係を前提にした判断です。敷地を取得できる見込みがあった場合や、注文者の協力が得られる状況だった場合にどうなるかについて、多数意見は述べていません。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。