MENU

未払いの一時金は「不法行為」で請求できるか 最高裁の判断

事件番号令和6年(受)第2399号
裁判所最高裁判所第二小法廷
判決日2026-02-13
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 会社が労働契約に基づく一時金を払わなかったとき、労働者はその分を不法行為による損害賠償として請求できるかが争われた
  • 最高裁は、賃金を払わないこと自体は契約上の金銭債務の不履行にとどまり、それだけでは不法行為にはならないと判断した
  • 同じ「払ってもらえなかった」でも、どの法律構成で請求するかによって結論が変わりうることを示した判決
目次

何があったのか

この会社では従来、労働者が2つに区分されていました。期間の定めのない労働契約を結んだ正社員と、期間の定めのある労働契約を結んだ準社員です。それぞれに正社員就業規則・準社員就業規則が用意されていました。

会社は、新たに「有期雇用契約社員」という区分を設け、この区分で労働者らを雇うことにします。契約が結ばれたのは平成22年(2010年)1月1日から平成23年(2011年)9月1日までの間で、契約期間はいずれも6か月でした。

問題は順序でした。契約では、労働条件は有期雇用契約社員就業規則によると定められていたのですが、会社が実際にその就業規則を作成したのは平成23年11月3日。契約を結んだ時点では、参照すべき就業規則がまだ存在していなかったのです。

そして、準社員就業規則には一時金についての定めがあったのに対し、有期雇用契約社員就業規則には一時金の定めがありませんでした。判決文は一時金の中身までは説明していませんが、どちらの就業規則が適用されるかで、受け取れる金銭に差が出る構図です。

何が争われたのか

原審の名古屋高等裁判所は、有期雇用契約社員就業規則が作成される前日、つまり平成23年11月2日までは、労働者らに準社員就業規則が適用されると判断しました。準社員として扱われるべきだったのなら、一時金も受け取れたはずだ、というのが出発点になります。

労働者らは、会社が一時金を支払わなかったことで損害を被ったとして、不法行為に基づき、一時金相当額と弁護士費用相当額の損害賠償を求めました。高裁はこの請求を一部認め、会社は不法行為に基づく損害賠償義務を負うとしています。

最高裁で問われたのは、この組み立ての当否です。契約上支払われるべき賃金が支払われなかったという事実は、それだけで不法行為にあたるのでしょうか。

裁判所はどう判断したか

最高裁第二小法廷は、「原審の上記判断は是認することができない」として、高裁の判断を退けました。

筋道はこうです。労働者らに準社員就業規則が適用され、一時金の支払を求める具体的な請求権(労働契約に基づく賃金債権)があったのだとすれば、会社がそれを払わなかったことは、契約に基づく金銭債務の不履行にあたります。そして、「当該不履行自体は債権者の不法行為法上の権利利益を侵害するものではない」というのが最高裁の理解です。払われるべきものが払われていないという状態は、契約の問題としてすでに受け止められている、ということになります。

そのうえで最高裁は、この事件で労働者らはもっぱら一時金が支払われなかったことをもって不法行為だと主張していると整理しました。それならば、「契約責任(債務不履行)のほかに、不法行為責任が問題になる余地はない」。

結論として、一時金の支払債務の不履行を理由に、一時金相当額を不法行為に基づく損害賠償として請求することはできない、とされました。高裁判決のうち会社が敗訴していた一時金部分は破棄され、この請求を退けていた第1審判決の結論が正当だとして、労働者側の控訴が棄却されています。裁判官全員一致の判断でした。

なお、扶養手当と特別休暇に関する損害賠償請求についての上告は、会社が上告受理申立ての理由を記載した書面を提出しなかったため却下され、その余の上告は棄却されています。訴訟の総費用は9分され、9分の1を会社が、残りを労働者側が負担することになりました。

この判決の意味

同じお金を請求するのでも、契約を守らなかったという組み立て(債務不履行)と、権利を侵害されたという組み立て(不法行為)とでは、法律上の扱いが違ってきます。

違いが表に出やすいのが弁護士費用です。最高裁は昭和44年(1969年)2月27日の判決で、不法行為による損害賠償については、事案の難易や認容額などを考慮して相当と認められる範囲の弁護士費用も、不法行為と相当因果関係に立つ損害にあたるとしてきました。他方、金銭債務の不履行については、民法419条が損害賠償額を法定利率によって定めると規定していることから、弁護士費用を別に請求することは原則としてできないと説明されています。

この事件で労働者らが一時金相当額に加えて弁護士費用相当額も求めていたことは、判決文に書かれています。不法行為という組み立てが否定されたことで、その部分も一緒に立ちゆかなくなったことになります。

賃金が支払われないという場面は、まず契約の問題として扱われる。未払いだからそのまま不法行為にもなる、という重ね方はしない。今回の判決からは、そうした線引きが読み取れます。

その後・実務への影響

この訴訟はもともと、有期雇用の労働者と無期雇用の労働者の待遇差を問題にする類型の事件として起こされたものです(裁判所が付した事件名も、労働契約法20条違反による損害賠償請求事件となっています)。労働契約法20条は2020年4月1日に削除され、有期雇用労働者の不合理な待遇差を禁じるルールは、パートタイム・有期雇用労働法8条に移されています。

ただし今回、最高裁が実質的な判断を示したのは、一時金についての不法行為という組み立ての可否だけです。待遇差そのものについては、上告受理の段階で審理の対象から外されており、最高裁の判断は示されていません。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次