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LPガスの途中解約で約17万円の請求 最高裁は契約条項を無効と判断

事件番号令和6年(受)第204号
裁判所最高裁判所第三小法廷
判決日2025-12-23
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 戸建て住宅を買ったときに結んだLPガスの供給契約を約2年で解約したところ、ガス会社から配管などの設置費用として約17万円を請求された
  • 最高裁は、この請求の根拠となる契約条項は実質的に違約金の定めであり、消費者契約法によって全部が無効になると判断した
  • LPガス業界で「無償配管」と呼ばれてきた商慣行について、消費者契約法の面から最高裁が判断を示した事例
目次

何があったのか

2019年(令和元年)ごろ、あるLPガス販売会社が、住宅販売会社の分譲する戸建て住宅に、LPガスを使うための配管とガス栓、それに給湯器などを設置しました。このときガス会社は、設置にかかった費用を住宅販売会社には請求していません。

同じ年の6月、この住宅を買った人がいました。購入にあたって住宅販売会社からは、指定のLPガス販売会社からガスの供給を受ける必要がある、といった説明を受けていたといいます。翌7月、購入者はそのガス会社と供給契約を結び、住宅へのガス供給が始まりました。

契約書には、次のような内容が書かれていました。

  • ガスの供給期間は、供給開始日から10年以上とする
  • ガス会社が負担した設置費用は21万円(消費税込み)で、購入者がこのガス会社からガスの供給を受けている間は請求しない
  • 供給開始日から10年たつ前に供給を終了させる場合は、次の算定式で出た金額を、供給終了後ただちに支払う

算定式は、21万円から、21万円に0.9を掛け、さらに供給開始日から供給終了日までの経過月数を120で割った数を掛けた額を差し引く、というものでした。早くやめるほど請求額が大きくなり、10年に近づくほど小さくなる形です。

2021年(令和3年)6月、購入者は別のガス会社に切り替え、それまでのガス会社からの供給は終わりました。契約から約2年での切り替えです。ガス会社は、この算定式にあてはめた17万3775円と遅延損害金の支払いを求めて訴えを起こしました。

なお、住宅に設置された配管は住宅に付合していて(建物と一体になっていて)、供給契約を結ぶ前から購入者が所有している、という点は裁判で争われていません。

何が争われたのか

当時の消費者契約法9条1号は、消費者契約の「解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」について、同じ種類の契約の解除にともなって事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分は無効になる、と定めていました。

購入者側は、この契約条項がまさにその違約金等条項にあたり、しかもこの種の契約の解除によってガス会社に生じる平均的な損害は存在しないのだから、条項は全部が無効になる、と主張しました。

ガス会社側の立場はこれと逆です。この条項は違約金ではなく、10年間のガス料金の中から回収する予定だった設置費用について、その未回収分を払ってもらう合意にすぎない、というものでした。

第1審はガス会社の請求を退けましたが、東京高裁(2023年10月26日判決)はガス会社側の見方を採り、違約金等条項にはあたらないとして請求を認めました。

裁判所はどう判断したか

最高裁第三小法廷は2025年12月23日、裁判官全員一致で高裁判決を破棄し、ガス会社の控訴を棄却しました。請求を認めない結論で決着しています。

まず、条項の性質について。最高裁は、ガス会社が住宅販売会社に設置費用を請求しなかったのは、その住宅を買った人と優先的に供給契約の交渉ができる事実上の地位を確保するためだったとみました。契約中は設置費用を請求せず、10年たつ前にやめる場合の金額を経過期間に応じて減らしていく仕組みも、契約を結ぶよう誘い、短期の解約を防いで長く続けさせるためのものだ、と評価しています。そのうえで設置費用を、契約を獲得して長く維持するための「先行投資」と位置づけました。

さらに最高裁は、算定式の金額が10年たつまで毎月一定額ずつ減っていくのに、10年を過ぎてもガス料金が下がるという定めはなく、設置費用とガス料金の関係が契約上はっきりしていないことを指摘します。だからこの金額が設備設置の対価といえるのかは明らかでない、というわけです。

こうして最高裁は、この条項の働きを次のように評価しました。

実質的にみると、解除に伴う損害賠償の額の予定又は違約金の定めとして機能するものということができる

次は、無効になる範囲です。違約金等条項にあたるとしても、平均的な損害の額を超えない部分は有効に残ります。ここでガス会社側には、解約でその後のガス料金が入らなくなった以上、設置費用の未回収分が損害として残るようにみえる、という言い分がありました。

最高裁はこれを認めませんでした。設置費用とガス料金の関係が不明確なままにされていた契約内容からすれば、ある契約者の設備の設置費用は、その人からではなく

契約者全体から得られるガス料金から回収する仕組みとなっていた

とみるべきだ、というのが出発点です。加えてLPガスの価格には法令上の規制がなく、販売事業者が自由に料金を設定できることも考え合わせると、設置費用を回収しきれない契約者が一定数出ることを見越して全体の料金を決め、その負担を他の契約者に転嫁することが可能になっていた、と述べました。それなら未回収分の損害が生じたとはいえない。ほかに平均的な損害にあたるものも見当たらない。したがって平均的な損害は存在せず、条項は全部が無効になる——という筋道です。

この判決の意味

判決には林道晴裁判官の補足意見が付いています。そこでは、戸建て住宅の建築時に建設業者などが提携するLPガス販売事業者に屋内配管の工事を無償でやらせ、事業者は住宅の購入者に設置費用を一括請求せず、購入者が一定期間内に解約した場合に精算を求める、という商慣行が「無償配管」「貸付配管」と呼ばれてきたことが説明されています。ガス料金と設置費用の関係が不明確で料金が見えにくくなること、短期で解約しようとすると高額な費用を一度に払わされるためガス会社を選ぶ自由が妨げられかねないことが問題として指摘されてきましたが、こうした条項の法的な性質や効力については、まだ解釈が定まっていなかったといいます。

その状況を踏まえて示されたのが今回の判断です。ただし裁判所が判断したのは、あくまでこの事件の契約条項について、この事件の事情のもとで、ということです。補足意見も、事業者が配管の所有権が家主にあることを前提に、月々負担すべき設置費用の額を基本料金・従量料金と区別して請求するような場合には、この判決の射程は当然には及ばなくなると解される、と述べています。

なお、この判決が適用したのは2022年の改正前の消費者契約法9条1号です。平均的な損害の額を超える部分が無効になるという規定自体は、2023年6月施行の改正後も9条1項1号として置かれていますが、最高裁が判断したのは改正前の条文についての事案でした。

その後・実務への影響

補足意見によれば、無償配管の商慣行の是正には経済産業省や公正取引委員会などが以前から取り組んでおり、2024年7月2日に改定された液化石油ガスの小売営業における取引適正化指針では、今後この商慣行を行わない方向で取り組むことが望ましい旨が明記されました。さらに液石法の施行規則は、基本料金・従量料金・消費設備等に係る費用の三つに整理して請求する「三部料金制」を販売事業者に義務づけています。経済産業省の説明によれば、設備費用を切り分けて表示するこのルールは2025年4月2日に施行されました。

また同じ2025年12月23日、最高裁第三小法廷は別の事件でも判断を示し、屋内配管が原則として戸建て住宅に付合するものであることなどを述べています。配管が誰のものになるのかという論点についても、同じ日に整理が進んだことになります。

補足意見は、LPガス販売事業者において今後、三部料金制を徹底するなどしてガス料金の透明化を図ることが望まれる、と結ばれています。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

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