| 事件番号 | 令和5年(受)第287号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第二小法廷 |
| 判決日 | 2024-06-21 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 男性から女性へ法律上の性別を変更した人の凍結保存精子で生まれた子が、その人に認知を求められるかが争われました。
- 最高裁は、血縁上の父子関係がある以上、相手の法律上の性別にかかわらず認知を求められると判断し、自ら認知を認めました。
- 法律上の性別が女性である人が、子の法律上の父となる道を最高裁が初めて示した判決です。
何があったのか
この事件で認知を求められた人(以下、血縁上の父)は、もともと男性として生まれ、自分の精子を凍結保存していました。その後、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下、特例法)に基づく審判を受けて、法律上の性別を男性から女性に変更しました。
血縁上の父のパートナーである女性は、血縁上の父の同意のもとで、この凍結精子を使った生殖補助医療によって妊娠し、子を出産しました。二人は結婚しておらず、生まれた子は母の嫡出でない子(婚姻関係にない男女の間に生まれた子)という扱いになります。
血縁上の父は、子が生まれる前に役所へ胎児認知の届出をしましたが、法律上の性別が女性であることなどを理由に受理されませんでした。そこで、子の側から血縁上の父に対し、裁判で認知を求めました。
報道によると、この二人の間には2人の娘がいて、2018年に生まれた長女は性別変更の前、2020年に生まれた次女は性別変更の後に生まれています。最高裁で争われたのは、性別変更の後に生まれた次女の認知でした。
何が争われたのか
認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子と父との間に、法律上の親子関係を生じさせる仕組みです。父が自ら認知しない場合、子の側から裁判で認知を求めることができます(民法787条)。
ところが、民法などの法律には、認知によって父となる人の法律上の性別を定めた規定がありません。判決は、特例法が平成16年に施行されるまでは、法律上の父が男性であることに疑問が生じる状況はなかったと指摘しています。生殖補助医療の進歩と特例法の施行によって、法律上は女性である人が、血縁上の父になるという事態が起こりうるようになりました。
高裁は、子が生まれた時点でその人の法律上の性別が男性である場合に限って、子は認知を求める法的地位を得ると考えました。この事件では子の出生時にはすでに女性に変更されていたため、認知は求められないとして、子の請求を退けていました。
裁判所はどう判断したか
最高裁は、高裁の判断を誤りだとしました。理由の柱は3つあります。
1つ目は、親子法の基本的な考え方です。最高裁は次のように述べています。
民法の実親子に関する法制は、血縁上の親子関係をその基礎に置くものである。
そのうえで、男性として生まれた人が自分の精子で女性に子を妊娠させれば血縁上の父子関係が生じ、この点はその人の法律上の性別が男性か女性かによって変わらない、としました。
2つ目は、子の福祉です。もし相手の法律上の性別を理由に認知が妨げられると、血縁上の父子関係があるのに、養子縁組をしない限り、その人は子の親権者になれません。子の側も、その人から監護・養育・扶養を受ける法的な地位を得られず、その人の相続人にもなれません。最高裁は、「このような事態が子の福祉及び利益に反するものであることは明らかである」としました。
3つ目は、特例法3条1項3号との関係です。この規定は性別変更の要件として、現に未成年の子がいないことを求めています。制定時は子がいないことが要件でしたが、平成20年の改正で未成年の子に限られました。最高裁は、改正後のこの規定は主に未成年の子の福祉に配慮したものだとし、この規定を根拠に子の認知を妨げると、かえって子の福祉に反すると述べました。さらに、この規定の内容からすると、子が成年であれば法律上の父が男性に限られないことも明らかになっている、と指摘しています。ほかに認知を妨げる根拠となる規定も見当たらないとしました。
以上から、最高裁は、生物学的な女性に自分の精子で子を妊娠させた人に対し、嫡出でない子は「その者の法的性別にかかわらず、認知を求めることができると解するのが相当である」と結論づけました。
そして、高裁の判断のうち次女に関する部分を破棄したうえで、自ら判断して、次女が血縁上の父の子であることを認知しました。事件を高裁に差し戻したのではなく、最高裁の判決で決着した形です。裁判官4人全員一致の意見でした。
この判決の意味
この判決の中心は、認知の訴えを血縁上の父子関係に基づく仕組みと位置づけ、相手の法律上の性別を要件に持ち込まなかった点にあります。これにより、法律上の性別が女性である人が、子の法律上の父になりうることが示されました。
2人の裁判官が補足意見を書いています。
三浦守裁判官は、2023年10月に最高裁大法廷が特例法3条1項4号(生殖腺がないことなどを求める要件)を違憲無効と判断したことにも触れつつ、この要件の存在も今回の結論の妨げにはならないとしました。また、凍結保存した精子などの扱いについて法整備の必要性が認識されながら20年を超える年月が経ち、現実が先行していると指摘し、現行法を適切に解釈して事件を解決するのは裁判所の責務だと述べています。
尾島明裁判長は、子が性別変更の前に生まれたか後に生まれたかという、いわば偶然の事情で結論を分けた高裁の基準は合理的とはいいがたいと指摘しました。同じ親から生まれた姉妹で、長女は認知が認められ、次女は認められないという高裁の結論は、この点で見直されたことになります。
一方で、尾島裁判長は、この判決が扱ったのは血縁上の父とパートナーが子をもうける目的で生殖補助医療を受けた事案であることも強調しています。精子が提供者の意に反して使われた場合の父子関係のように、生殖補助医療の法整備の中で議論されている問題について、この判決は一定の結論を前提にするものではないとしています。判決の射程を考えるうえで、この限定は押さえておく必要があります。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。