| 事件番号 | 令和4年(受)第1041号 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 判決日 | 2024-03-12 |
| 出典 | 裁判所ウェブサイトの判決文 |
3行でわかる判決
- 仮想通貨で稼げるとうたうDVD教材や自動売買システムを買った多数の消費者のために、消費者団体が、業者には損害を賠償する義務があることの確認を求めた裁判です。
- 二審は、購入者ごとに事情(過失の程度や、購入の動機)が違いすぎるとして、訴えそのものを退けました。最高裁はこの判断を誤りとして、一審からやり直させました。
- 集団で被害回復を図る制度の入り口を、どこまで狭く解してよいのかについて、最高裁が初めて考え方を示した判決です。
何があったのか
ある会社が、2016年10月頃から、仮想通貨の仕組みなどを解説する「仮想通貨バイブル」というDVD5巻セットを、ウェブサイトで売り出しました。価格は4万9800円または5万9800円で、特典を付けたVIPクラス版は9万8000円でした。
ウェブサイトには、指導者が参加者に短期間で16億円を稼がせた、3年以内に確実に億万長者になる、といった趣旨の宣伝文句が並んでいました。
さらに会社は、DVDの購入者向けに動画を公開し、その中で商品の説明役を務めた人物が「パルテノンコース」というサービスを紹介しました。価格は49万8000円です。購入者が「ハイスピード自動AIシステム」にログインして投資額などを設定すると、特定のトレーダーと同じ取引ができる、というものでした。動画では、簡単な初期設定だけでAIが24時間365日お金を増やし続けてくれる、という趣旨の説明がされていました。
購入者は、DVDが約4000人、VIPクラス版が約1500人、パルテノンコースが約1200人にのぼりました。
これに対し、国から認定を受けた消費者団体(特定適格消費者団体)が、会社と説明役の人物を相手に裁判を起こしました。虚偽や、実際とかけ離れた誇大な効果を強調した説明で商品を売ったのは不法行為にあたるとして、購入者に対して代金相当額などの損害賠償義務を負うことの確認を求めたものです。
何が争われたのか
この裁判は、消費者裁判手続特例法という法律に基づく、少し特殊な仕組みを使っています。
同じ原因で多数の消費者が被害を受けたとき、一人ひとりが裁判を起こすのは費用も手間もかかります。そこでこの法律は、手続を2段階に分けています。
- 1段階目(共通義務確認訴訟):認定を受けた消費者団体が、業者に、共通の原因に基づいて消費者にお金を支払う義務があることの確認を求める
- 2段階目(簡易確定手続):1段階目で義務が確認されたら、個々の消費者が手続に加わり、それぞれの請求額などを決める
ただし法律(3条4項)は、2段階目の手続で個々の請求を適切かつ迅速に判断することが難しいと認めるときは、1段階目の訴えを却下できると定めています。実務では「支配性」の要件と呼ばれています。
二審は、この規定を使って訴えを却下しました。理由は次の2点です。
- 過失相殺:誰でも確実に稼げる方法など、そもそも想定しにくい。投資の知識や経験、購入に至った経緯は人によって違うので、購入者ごとに過失の有無や割合が異なる
- 因果関係:購入の動機も、宣伝を信じた人もいれば、単に仮想通貨に興味があっただけの人もいて、宣伝と購入のつながりは人によって様々だ
争点は、こうした個人差があることを理由に、1段階目の入り口で訴えを退けてよいのか、という点でした。
裁判所はどう判断したか
最高裁第三小法廷は、裁判官全員一致で二審の判断を誤りとし、二審判決を破棄し、一審判決も取り消して、東京地方裁判所に審理を差し戻しました。
どんなときに却下できるのか
最高裁はまず、この法律はそもそも、個々の消費者の個別事情を2段階目の手続で審理することを予定している、と指摘しました。そのうえで、この規定で訴えを却下できるのは、争点の多さや内容、個別事情がどれだけ共通しているか、想定される審理の内容などに照らして、「消費者ごとに相当程度の審理を要する場合」だとしました。
個人差が少しでもあれば却下できる、という考え方は採らなかったことになります。
過失相殺について
最高裁は、説明はウェブサイトの文言と動画で行われていたので、購入に至った主な経緯も、説明から生じうる誤解の内容も、購入者の間で共通していると判断しました。
また、売られていたのは仮想通貨の解説教材や取引のためのシステムであって、「仮想通貨への投資そのものではない」と指摘しました。そのため、購入者ごとに投資の知識や経験を詳しく考慮する必要性は高くない、としました。
さらに、過失相殺が争われても、2段階目を担当する裁判所が「適切な審理運営上の工夫を講ずることも考えられる」と述べ、過失相殺を理由に消費者ごとに相当程度の審理が必要になるとはいえない、と結論づけました。
因果関係について
主な経緯が共通している以上、説明から生じた誤解に基づいて購入したと考えることには合理性があるとして、購入者ごとに因果関係の事情が様々だとはいえない、と判断しました。
補足意見
林道晴裁判官は補足意見で、この要件を判断するときは、2段階目の裁判所が取りうる審理上の工夫を十分に考慮に入れるべきだと述べました。たとえば、当事者が多数いる訴訟では、被害者ごとの事情を一定の範囲で類型化し、それに応じて過失の割合を決めるといった工夫がされており、同じことは2段階目の手続でもできるだろう、としています。宇賀克也裁判官もこの補足意見に同調しました。
この判決の意味
消費者団体がまとめて被害回復を求める制度は、一人ひとりでは泣き寝入りしがちな少額・多数の被害を救うために作られました。ところが、「人によって事情が違う」ことを理由に入り口で訴えを退けられるなら、この制度が使える場面はかなり狭くなります。
最高裁は、個別事情の審理は本来2段階目で行うものだという制度の組み立てを出発点に、却下できるのは消費者ごとに相当程度の審理が必要な場合に限られる、という考え方を示しました。この要件について最高裁が判断を示したのは、この判決が初めてです。
注意したいのは、最高裁が決めたのはあくまで、この訴えを門前払いにしてはいけないということです。業者に賠償義務があるかどうかという中身については判断しておらず、それは差戻し後の審理に委ねられました。
なお、この法律は2022年に改正され(2023年10月施行)、題名も現在のものに改められていますが、この判決が問題にした3条4項の要件は改正の対象になりませんでした。判決もこの改正後の題名を前提に判断しています。
その後・実務への影響
原告の消費者団体の発表によると、差戻しを受けた東京地方裁判所は2025年2月28日、団体の請求を全面的に認める判決を言い渡しました。これに対して会社と説明役の人物は控訴しました。
本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。