MENU

部屋の持ち主は国、明渡しを求めたのは県。この請求は認められるのか

事件番号令和6年(受)第1046号
裁判所最高裁判所第二小法廷
判決日2026-01-09
通称東雲住宅明渡訴訟
出典裁判所ウェブサイトの判決文

3行でわかる判決

  • 建物を所有しているのは国、住んでいた人に明渡しを求めたのは、国から使用許可を受けた福島県だった
  • 最高裁は、県が国の明渡請求権を代わりに行使できるとした原審の結論を是認し、上告を棄却した
  • 裁判官の1人が反対意見を述べており、判断は一枚岩ではなかった
目次

何があったのか

2011年3月の東北地方太平洋沖地震と福島第一原子力発電所の事故のあと、福島県内から東京都内へ避難した人がいました。福島県から災害救助法に基づく救助の応援を要請された東京都知事は、東京都江東区にある国家公務員宿舎「東雲住宅」の一部の住戸について国から使用許可を受け、2011年7月頃、そのうちの1戸を応急仮設住宅として無償で提供します。

その後、福島県は方針を変えます。2015年6月、避難指示区域の外から避難した人(区域外避難者)について、2017年4月以降は災害救助法に基づく救助から新たな支援策へ移していくこととし、県知事は2017年3月をもって応急仮設住宅の無償提供を終える判断をしました。県は各都道府県に公営住宅の優先入居枠の設定などの協力を依頼し、東京都は2016年6月、都営住宅の公募で区域外避難者向けの専用枠200戸を設けています。

さらに県は2017年2月、住まいの確保の見込みが立っていない避難者に対し、貸付料を受け取って宿舎を提供する仕組みを要綱で定めました。貸付期間は1年内かつ年度内で、条件を満たせば2019年3月末まで延長できるものでした。県は2017年3月に国へ使用許可を申請し、国はこれを許可します。この許可には使用料の定めがあり、県は国に納めていました。

しかし住んでいた人はこの貸付契約に応じず、2017年4月以降も部屋の占有を続けます。そこで県が明渡しを求めて訴え、住んでいた人の側は、無償提供を終える判断は裁量権の範囲を逸脱した違法なものだとして、国家賠償法に基づく損害賠償を求める反訴を起こしました。

何が争われたのか

ここで問題になったのは、請求している人が建物の持ち主ではないという点です。

東雲住宅を所有しているのは国です。県が持っているのは、国から使用許可を受けて建物を使う権利にすぎません。それでも県が明渡しを求められるとしたら、その道筋は、県が自分の使用する権利を守るために、国が持っている所有権に基づく明渡請求権を国に代わって行使する、という形になります。民法でいう債権者代位権を、こうした場面に転用できるかという問題です。

もう一つの争点は、住み続ける権原があるかどうかでした。住んでいた人の側は、無償提供を終える県の判断が違法である以上、自分には部屋を占有する権原があると主張していました。

裁判所はどう判断したか

最高裁第二小法廷は2026年1月9日、上告を棄却しました。

本件上告を棄却する。

代位行使の点について、最高裁は原審の結論を維持しました。

被上告人が上記建物明渡請求権の代位行使をすることができるとした原審の判断は、結論において是認

判決は、この判断が、賃借人が不法占拠者に対して所有者の明渡請求権を代位行使できるとした1954年(昭和29年)9月24日の第二小法廷判決と抵触するものではないとしています。

もう一つの争点についても、住み続ける権原はないとした原審の判断が正当だとされました。注目したいのは、無償提供を終える判断が違法かどうかに、多数意見が踏み込まなかったことです。

本件判断が違法なものであるか否かは、上告人の占有権原の有無に影響を及ぼすものではなく

違法かどうかを論じるまでもなく占有権原はない、という組み立てです。

この判決には、裁判官の意見が複数付いています。共同意見と個別意見のほか、三浦守裁判官の反対意見がありました。反対意見は、県には代位行使による明渡請求訴訟の原告適格がないとしたうえで、仮に原告適格があるとしても、区域内避難者と区域外避難者を一律に区別して提供期間を延長しなかった県の対応は、応急仮設住宅を必要とする区域外避難者の居住の安定に関わる利益を損なうもので、裁量権の範囲を逸脱または濫用したものだと述べています。そのうえで、住んでいた人の被災や避難の状況、家族関係や健康状態などの具体的な事情を総合的に考慮して権利の濫用に当たるかを検討していない原審には審理を尽くしていない違法があり、仙台高等裁判所に差し戻すべきだとしました。

この判決の意味

建物の所有者でない立場の人が、所有者の明渡請求権を代わりに行使する。この枠組みが、国有財産の使用許可を受けた自治体という場面でも、この事案では認められたことになります。

もっとも、判決に付された個別意見の一つは、国有財産の使用許可は私法上の賃貸借契約と似ているものの同じではなく、期間や用途が限られた制限的な権利だと指摘しています。賃貸借であれば契約があるという事実だけで代位行使の必要性を認めてよいが、使用許可の場合は、その許可によって得ている利益の中身を具体的に検討して判断すべきだ、という考え方です。使用許可があるから当然に代位行使できる、と読むのは早いということになります。

一方で、この判決が答えなかったこともあります。区域外避難者への応急仮設住宅の提供を打ち切った判断そのものの適法性です。多数意見はこれに触れず、反対意見はここを正面から違法だと述べました。同じ事実関係を前に、裁判官の見方が分かれたことは、この事案が住まいをめぐる判断の難しさを含んでいたことを示しています。

その後・実務への影響

この判決により、明渡しを命じた高等裁判所の判断が確定しました。報道でも、原発事故の避難者側の敗訴が確定したと伝えられています。

災害時の応急仮設住宅は、行政が国や民間から住戸を確保して提供する形をとることがあり、そのとき提供する行政と住む人の間の法律関係、そして所有者との関係は、通常の賃貸借とは異なる整理が必要になります。今回の判決は、その整理の一場面を示したものとして読むことができます。

本記事は判決文をもとにした解説であり、法律相談に代わるものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次